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12-08 中島義道『ヒトラーのウィーン』 [本]

今日は(あ、いえ、もう「昨夜は」ですね)、新国立劇場の『ドン・ジョヴァンニ』を観てきました。

タイトルロールのバリトン、マリウシュ・クヴィエチェンをはじめ、バス、バリトンの男性陣の競演という感じ。
クヴィエチェンさんの声の質、これぞバリトン。好みである。

騎士長の妻屋秀和さん、当然のごとく素晴らしいけど、レポレッロの平野和(やすし)さんがクヴィエチェンに負けずの存在感で、拍手喝采でした。

女声ではドンナ・アンナのアガ・ミコライさん。
この人が歌うときだけ、時間の流れ、空気の色がふっと変わって、この人だけの舞台になる。
そんな感じ。
聴き手に訴えかけてくる力が半端ではありません。

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先週、読んでいたのが、中島義道さんの『ヒトラーのウィーン』。

ご専門の時間論などの哲学書は、すみません、読んだ経験がないのです。
『ウィーン愛憎』『うるさい日本の私』など、エッセイの分野でも強烈な印象を残す文筆家です。

で、この本。

なんと言っても、店頭で見て即買いをしたのは、この造本。
さすが新潮社というべきか。
このカバー、この化粧扉、本文の組み方、挿入される写真の選び方とキャプションの付け方。

単行本でなければ味わえない、本作りの醍醐味を感じさせてくれます。

加えて、序文の中島さんの書き出しに、すでにがつんと惚れてしまいました。
これ、書けそうでなかなか書けないと思う。
さすが手練れの文章という感じ。


このところ、新書をはじめ「売らんかな」の粗雑な本ばかり読まされてきて、何か殺伐な気持ちになっていたので、こういう本は持ち歩いているだけで嬉しい感じ。


ところで、テーマとしては「嬉しい」なんて簡単に言ってはいけない本です。

クラシック音楽といえばウィーン、そのウィーンは、あのヒトラーを育んだ街でもある。

育むといっても5年ちょっとしか居なかったのだけれど、その5年が17歳からの5年、しかも、生涯初めて惨めな体験をつぶさに味わわされた5年ともなれば、のちのちに及ぼした影響は少なくなかっただろうと想像できます。


ウィーンは、中島さん自身が、若き日に苦悩の日々を過ごした街。
その経験が、ヒトラーの心の足跡をたどるという本書の企画の始まりだったようです。


あちこちに啓発的な文章がありますが、たとえばこんなところ。

世界の構図をすべて逆転してでも自分を救うことは〔ヒトラーにとって〕「義務」なのだ。そのために必要なものなら何でも利用する。……(中略)……ヒトラーは、〔サルトルの言う〕「形而上学的自負心」の巨大な塊であった。それが、究極的には、彼の異様なほどの「成功」の原因でもあり異様なほどの「失敗」の原因でもある。〔164-165頁〕


もう一つ、ヒトラーにとって重要だった街がリンツ。
ここはまたブルックナーの「聖地」でもあって……

というわけで、クラシック音楽に興味のある人にとっても、多分、非常に面白く読める本(と思う)。


余談ですが、ヒトラーの誕生日は4月20日だそうで、ちょうどその日に、それに触れた箇所を読み、ちょっとぞくっとしました。



ヒトラーのウィーン

ヒトラーのウィーン

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/01/18
  • メディア: 単行本



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