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10-16 『新しい音を恐れるな』 [本]

最近、面白いコンサートが続いたので、まるで演奏会レポートのブログみたいになっていますが。
そろそろ音楽以外の話も書きたいけれど……
今回は、いま読んでいる本がとても面白いので、ご紹介します。


指揮者・ピアニスト、インゴ・メッツマッハーの『新しい音を恐れるな』。
翻訳(小山田豊さん)が素晴らしい。まるで日本語の書き下ろしのようです。

メッツマッハーは1981年から「アンサンブル・モデルン」のピアニストとして活動。
ハンブルク歌劇場およびベルリン・ドイツ交響楽団の音楽監督を歴任。

実は、私はまだこの人の音楽は聴いたことがないのです(熱心なクラシック・ファンには軽蔑されそう)。

どうして手に取ったかというと、やはりこのタイトル(原題どおり)。
それから、あのハンブルクの監督と知って、もしかして、面白い人かも、と思ったので。
本を読むにつれ、どんな音楽をする人なのかなぁ、と興味が湧いてきます。


目次を眺めてみれば、なんとなく、この人の興味関心、センスが見えてくるかも……


 ぼくの父
ある作曲家(アントン・プラーテ)との対話
 時間
アイヴズ
マーラー
 色彩
ドビュッシー
メシアン
 自然
シェーンベルク
ヴァレーズ
 ノイズ
シュトックハウゼン ← この章、特に生き生きとしていて面白いです。
 静寂  ← いまここを読んでいるところ。
ノーノ
 告白
ハルトマン
ストラヴィンスキー
 遊び
ケージ
 旅の途中で


作曲家の項では、メッツマッハーの個人的な心象も含めた、詩的な作品解説になっているので、よく知らない曲だといささか退屈、飛ばし読みになってくる。
でも、知っている作品だと、うんうん、と、納得できることが多い。

なによりも、作曲家たちに対する愛情や共感がつねに底流に流れているので、読んでいて気持ちがいいのだ。
選ばれた作品は、もはや「現代音楽の古典」と言えそうな代表作ばかり。
この本をガイドに、聴き直してみると面白いかも、と思う。


たとえばこんな文章に出会うと……
この人いいなぁ、こういう人の音楽なら聴いてみたいなぁ、などと、単純だけど、思ってしまう。

メシアン:時の(世の)終わりのための四重奏曲について。
(この曲は、第二次大戦中、メシアン〔フランス人〕がドイツの捕虜収容所に収容されていたときに作曲され、収容所の中で初演された)

「楽器はどれも傷んでいて、ようやく音が出る程度。寒く、服はすり切れ、誰もが飢えと不安にさいなまれていた。こんな状況でさえメシアンは、内から光を放つ音楽、未来を信じる音楽を書き上げることができた。この音楽がどれほど人々の慰めとなったか、それはとてもぼくたちの想像の及ぶところではない。」(91頁)


または、こんな文章。

ドビュッシー:「晩年の傑作」である『遊戯』について。

「ストラヴィンスキーの『春の祭典』より2週間早く初演されたこの作品は、すぐに忘れられてしまった。ストラヴィンスキーの音楽があおり立てる狂乱を前にしては、繊細で抑制のきいた様式や、高度に洗練された音楽性に、とても勝ち目はなかった。 (中略) 最先端の強烈なもの、大声で叫ぶものが勝ったのだ。少なくとも当面は。」(78頁)


名曲というのは、歴史の淘汰を経て残ったものが名曲なのだ、残らなかったのは名曲ではないからだ、と割り切った言い方をされることもあるけれど……
歴史はそんな単純なものじゃない。

メッツマッハーはちゃんとそれを言ってくれる音楽家なんだな、と思う。


このひとは、今年の11月、新日フィルを振るために来日するようです。
曲目はマーラーとハルトマンらしい。行ってみたいと思っています。

下記のCDは2つとも私は未聴ですが、聴くとしたらヴォツェックを最初に聴いてみたいです。
(ただ、お金にも時間にも限りがあるので;; いつになることやら)
メッツマッハーのレコーディングの代表作と言えるのは、2つ目の、ハルトマンの交響曲全集のようです。


新しい音を恐れるな 現代音楽、複数の肖像

新しい音を恐れるな 現代音楽、複数の肖像

  • 作者: インゴ・メッツマッハー
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2010/03/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



ベルク:歌劇「ヴォツェック」(全3幕)

ベルク:歌劇「ヴォツェック」(全3幕)

  • アーティスト: オルセン(フローデ)
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1999/10/20
  • メディア: CD



ハルトマン:交響曲全集

ハルトマン:交響曲全集

  • アーティスト: ハルトマン,メッツマッハー(インゴ),バンベルク交響楽団,ボルンカンプ(アルノ)
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2000/03/23
  • メディア: CD



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