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12-02 ヘンデル 『ロデリンダ』 [コンサート]

METライヴビューイングの『ロデリンダ』、行ってきました。
とても面白かったので、忘れないうちに書いておきます。

いわゆるバロック・オペラ。
ヘンデルの1725年の作、リブレットはイタリア語、初演はロンドンのヘイマーケット。

作曲家はドイツ人で、初演はイギリスだけど、ジャンルとしては「イタリア・オペラ」に分類されるという、あの時代特有の珍現象。
バロック時代は、そして特にヘンデルは、現代人の想像以上にグローバルだったらしい。


METライヴビューイングは、幕間(休憩時間)のインタビューがとても面白くて好き。
今回のインタビュアーは、デボラ・ヴォイトでした。

ヴォイトがルネ・フレミングと並んでにこやかに喋っている図だけでも、なんだかスリリングな見ものです。
フレミングのインタビューの冒頭、「素晴らしかったわ!」と抱き合ったあと、まず第一声が「あら、そのカツラ、私のブリュンヒルデのかしら?」

METで主役をはるような強烈な個性の歌姫同士、微妙な仲ではなかろうかとつい思ってしまうのは、きっと下世話な勘ぐりなのでしょうけれど、この第一声には「おおっ」という感じ。
アドリブだったようで、フレミングのとっさの反応も薄いものでした。
一瞬ですが、素直に笑っていいのか迷う、微妙な出来事。


『ロデリンダ』では、重唱も合唱もほとんどなく、1人1人の歌手が代わる代わる心情を語るアリアを歌う。
しかもそれが、単純な歌詞を何度も繰り返すので長い。短縮ってできないのかなと思わず思ってしまう。
そのあたりの作法はやはり時代の古さを感じさせるけれど、フレミングが「ヘンデル作品は非常にmodernだと思う」と言っていたとおり。
人物の心情も、話の流れも、違和感なく受け止められるし、主要な登場人物6人がそれぞれどうなるのか、最後まで興味を引きつける上手いつくり。
確かに現代的、いつの時代でもおそらく共感を呼ぶであろうオペラでした。


いちばんの要と言える王様(フレミング=ロデリンダの夫)が、カストラートというのが興味深い。
現代ではカウンターテナーが代役をするほかないけれど、ファルセット(裏声)ではどうしても声の張りがなくパンチが弱いので、王様のアリアを聴くたびに違和感が……。
最後には王座を奪還する、堂々たる高貴な王様のはずが、泣いているシーンも多いし、なにやら軟弱に見えてしまうのは否めない。

声の質として、裏声とは異質の強さ、異界の響きを持っていたのが、カストラートだったのかもしれない、としきりに思いました。

(ただし、以前、録音技術が誕生する時代まで生き残った「最後のカストラート」の録音を聴いたことがありますが、高齢だったこともあってか細く弱々しい声でした。本当のところカストラートとはどういう歌手だったのか、声質や役回りも含め、謎は深い……)

とはいえ、第2幕の終わり、王と王妃とが、このオペラで唯一の二重唱を歌う場面。
ソプラノとカウンターテナー(アンドレアス・ショル)の珍しい重唱だけど、なんと美しかったことか。
死を覚悟した別れの場面。胸を衝かれる切なさでした。

バロック作品の歌い手は、「まずテクニック、テクニック、テクニック」と指揮者が語っていましたが、本当に、歌手には難しそうな音楽。反復をいかに飽きさせずに歌うかも含めて。

特に感心したのは、フレミングとメゾのプライズ。
フレミングが、「私は最初、モーツァルト歌いとしてスタートしたから」と語っていましたが、さもありなん。第1幕の嘆きのアリアなどは特に素晴らしく、感心しました。
メゾのプライズ、歌の上手さだけでなく、的確な演技で存在感あり、でした。

*****

ロデリンダ:ルネ・フレミング(S)
ベルタリード(ロデリンダの夫):アンドレアス・ショル(カウンターテナー)
エドゥイージェ(ベルタリードの妹):ステファニー・プライズ(Ms)
グリモアルド(ベルタリードの政敵):ジョセフ・カイザー(T)
ウヌルフォ(ベルタリードの忠実な友):イェスティン・デイヴィーズ(カウンターテナー)
ガリバルド(グリモアルドの友):シェン・ヤン(BsBr)

指揮:ハリー・ビケット
演出:スティーヴン・ワズワース

METでは3回目の上演。

*****

フレミングの自伝が出ています。
ガッツと可愛らしさを兼ね備えた永遠の少女という感じ。好感のもてる手記です。

魂の声 プリマドンナができるまで

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  • 作者: ルネ フレミング
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2006/02/01
  • メディア: 単行本



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